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肩車、夏蜜柑、母の床屋の夢。

by 優恵

 お父さんの肩車の上で大きな声で泣いている女の子がいた。なにがそんなに悲しいのか。なにがそんなに泣くほど思い通りではないのか。

 幼い頃、父の肩車が大好きだった。180cmを超える身長の父の肩車は特別な眺めだった。楽しいばかりで、父の肩の上で泣いた記憶は無い。けれど、幼い頃には思い通りではないことばかりだったような気がする。

 父と母と祖母と短い旅行に出掛けた時のことだった。小学校に上がる以前のこと。父たちの目的地は右の道を行く。けれど、わたしはどうしてもその道へ進みたくなかった。道の真ん中でしゃがみ込んで、そっちへ行くのは嫌だとぐずった。しゃがんでアスファルトの地面を見ながら、なにかが気に入らず、けれどいつまでもそうしているわけにはいかないことはちゃんとわかっていて、大人たちを困らせた。父も母も、わたしを無理矢理に立たせるということをしなかったので、わたしは自分のもやもやとした言葉にできない感情を説明できずに不機嫌な顔をしたまま立ち上がった。その後、どこへ向かったのかを思い出せない。

 その旅行の間に撮られた写真はどれも仏頂面で、眉間にしわを寄せ、にこりともしていない。

 幼い子供は、大人よりも理不尽を嫌い、それを言葉にできずに泣くことでしか伝えられないことがある。そんなことを思い出した日のこと。

 今年の年賀切手はとても好きだった。

 母とふたりで、今年も年賀状を書いた。たいした枚数ではないけれど、ふたりともその日の分を書き終えると目がじんじんとした。

 夏蜜柑を頂いた。

 

 江戸時代に山口で発見された夏橙。母とわたしの故郷からやって来た大きな蜜柑の木。

 夏というのに冬に頂く。甘苦い実はひとつひとつ剥いてサラダにすると良い。母は砂糖を掛けておやつにする。

 大塚の路面電車。

 何年か前に大塚を舞台にした短編映画に出演させて頂いた。長く大塚に在る美容院を撮影場所に借りて、わたしは女手ひとつで美容師をやりながら娘を育てた女性の役だった。

 あの撮影以来の大塚だということに、路面電車を見てやっと気が付いた。

 夢を見た。

 これから毎月、1cmずつ髪を切ることを母に薦められている。

 目が覚めて、今日、今から髪を切った方が良いと母が言っているのかと混乱した。

 わたしの髪は随分と長い間、母が切っていた。娘の頃は毛先を揃えるだけの長い髪で、前髪の長さが重要だった。また、母に切ってもらおうかと、夢の続きを思った日のこと。

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